読書記録:朝倉宏影著『日向を掬う』

またまた、読書家の母からのライン。

「面白い本に出会ってしまった。気が向いたら読んでみてください」

 

朝倉宏影さんの『日向を掬う』。

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会話主体でテンポよく進み、読みやすい「今ドキの小説」です。

ダメダメな独身中年男の元に、しっかり者の中学生の少女が転がり込んできて・・・というストーリー。

 

 

作中での雑談。

ストーリーには直接関係ないのに、ビビッときてしまいました。

 

「タイムマシンのある未来に生きているその子やさらに子孫が、自分の存在が消滅してしまうという危機感を持ったら、たぶん今、この瞬間にタイムスリップしてきて、なんとしても・・・(中略)・・・工作したりするだろうなぁって思って」

「実際に、今、未来人っぽいヤツが周りにいるかもしれない」

 

最近、物理学の世界でも存在の可能性が示唆され、近年ではパラレルワールドものの映画や漫画が流行しました。

文系の私が、興味本位で科学雑誌をパラパラ見た程度の知識ですが、

パラレルワールドは 今どの選択をするかで、未来の世界が分かれる、という内容だったと記憶しています。

 

例えば、大学受験で教育学部を受験するか、文学部を受験するかで迷ったとする。

実際には文学部に合格し、文系の仕事についたとしても、

教育学部に進学し、他の人生を歩む並行世界も同時に存在する、というのです。

 

・・・パラレルワールドなんて、にわかには信じられない感覚です。

しかし、「タイムマシンに乗った子孫が、未来を書き換えにやってくる」という説が、妙に腑に落ちてしまいました。

 

「今」の選択によって分岐していくパラレルワールドよりも、

「未来からの働きかけ」によって分岐していくパラレルワールドの方が、

私にはイメージしやすかったのです。

 

俄然、「パラレルワールド、ありそうだねえ!」という気持ちになってきました。

 

複数の過去。

複数の今。

複数の未来。

 

どれを選んでもいいし、どれがあってもいい。

「これじゃなきゃ!」という、執着がほぐれて、一気に気持ちが軽くなります( *´艸`)

 

 

 

「与えるってことは、奪うこととおんなじ」

「与えるということは、同時にほかの可能性を奪うこと」

 

というのも、いい表現だなあ、と思いました。

 

陰陽思想、という考え方があります。

相反しつつも、一方がなければ もう一方も存在し得ない―――

 

執着に苦しむ時や、イライラする時、人は「自分の都合」という一方だけを見がちです。

自分のベクトルがキュッと矢印を伸ばすなら、逆の方に伸びるベクトルと釣り合っているはずで。

それは、「自分の都合」に対して、「相手の都合」だったりします。

 

陰と陽はワンセット。

このことを心に留めておくと、大らかな気分でいられるようで、気に入っています( *´艸`)

 

物語の最終章で、「親子とは?」「家族とは?」の一つの解が導かれるのですが、

非常に素敵です。

 

ぜひ、親から子への普遍的なメッセージとして、読んでいただきたいです。

それぞれの胸に、それぞれの感謝と思い出が飛来するのではないでしょうか。

 

私は、この本は母からのメッセージだと受け取りました。

母からの「面白い本」というライン。

「この本と同じ思いだよ」というメッセージが隠れていたと思います。

 

いつの日も、娘を信じ、幸せを願ってくれた母。

どの思い出も、母の愛で作られていたと、娘の方も母を信じております。

 

親と子の「信じる」という循環を生んでくれた小説。

 

循環、という言葉が出てきたので、関連する部分を引用して、読書記録の結びとさせていただきます。

 

「堂々巡りでいいんだよ。堂々巡りするしかないんだよ。

 お互いがお互いに良い影響をおよぼしあう。それでいいじゃないか」