読書記録:弥生小夜子著『風よ僕らの前髪を』
第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作・弥生小夜子さんの『風よ僕らの前髪を』。
読書家の母のススメで、久しぶりに小説を読みました。
『風よ僕らの前髪を』。まず、タイトルがいい!
最初に「風よ」と詠嘆して、「僕ら」で複数人であること、それが若い人物であることとを伝え、ほんのりと青春の香りも漂わせます。
(某 毒舌の俳句の先生みたいな口調になっちゃった( *´艸`))
「前髪を」と目的語で留め、動詞は省くことで、余韻を残しています。
風を感じる時。
出所が分からない切なさに、胸が締め付けられるように感じたことはないですか?
おそらくは、風に触覚を刺激され、意識を「今ここ」に引き戻されている、
というのが原因でしょうか?
人間の脳は一日に6万回も思考していると言われています。
そのほとんどは過去や未来の心配をしていて、今目の前のことに集中できていないのだとか。
一陣の風によって、とりとめもない思考が分断された刹那、
透明な宇宙にぽっかりと浮かんでいるような、
自由と、それ故の不安と、今まさに生きているという実感が押し寄せ、
トントンッと鼓動が速くなることがあります。
(不整脈じゃないヨ(;^_^A)
なぜこんなお話をしたのかと言うと、
どうもこの小説の裏テーマがそういうところにあるのでは、と感じたからなのです。
環境や、しがらみ。
どうにもならない檻の中で、それでも自由を求め。
自己責任で、選び取る行動。
その成否は、天秤がどちらに傾くのかは、誰にも分からない。
それでも、いずれかを選び続け、ベットし続けることが生きていくということ。
そう諭されているような気がしました。
殺人事件という非日常の世界を描きながらも、
「これは誰の物語でもある」という普遍性を感じずにはいられませんでした。
小説の内容は ミステリーで、終盤に向けていくつもの謎がほぐれていく様は圧巻。
それがまた、読者が「分かりそうで分からない」謎をちらつかせて、倦ませない。
時々、トリックに凝りすぎて、読者がしんどくなるようなミステリーってないですか?
弥生さんは、ご自身のテクニックを誇示することなく、
読者の「謎が解けたかも」という自尊心をくじかない書き方をしてくださいます。
チラチラとヒントを見せてくれ、読者がページをめくる手を止めさせません。
もう、半日で一気に読み終えてしまいましたよ(≧◇≦)
弥生さんの思うツボ、手のひらの上で転がされっぱなしです⊂⌒~⊃。Д。)⊃
会話文が主体で、物語の展開がスピーディーなのも素晴らしい。
これは、最近の小説のトレンドらしいです。
小説だけでなく、ヒットソングもyou tubeも秒で顧客の心を掴まないと、
すぐに切り捨てられる時代だそうで、カルチャーの構成が高度情報化社会の傾向に寄せてきているんですね。
だから、最近のヒットソングは突然サビから始まったり、you tubeの冒頭で視聴者の注意を引き付ける工夫を凝らしたりしているそうなんです。
確かに、情景描写が長々と続いたり、
登場人物がなかなかアクションを起こさなかったりしたら、
こんなに一気に読み切れなかったと思います。
他にも、小さなエピソードや比喩表現の一つ一つまでもが、
ムダなく物語に編み込まれており、
中だるみするところがありません。
加えて、登場人物が美形揃い・・・(≧◇≦)
もうね、どのシーンも絵になる。美しい。せつない。
サクッと読めて、
秒で引き込まれ、
美しく悲しい人たちの心の機微に触れ、
謎解きまで楽しめる。
読んだ後は、一陣の風に吹かれたような気分に浸れるかも( *´艸`)
おススメです!!